2007年12月10日月曜日

アカウントプランニング①

今週は、若干つまらないかもしれませんが
ボクが個人的に日々研究している
アカウントプランニング&消費者インサイト特集です。

自分の頭の整理の意味も含めて
かなり長文の特集になると思いますが
お付き合い頂ければ幸いです。

というのも広告クリエイティブの抱える問題は、
クリエイティブとは直接関係ない所に
存在していると思うからです。

その突破口になるのがアカウントプランニングおよび
消費者インサイトであるとボクは思っています。

本日から5日間、過去の海外の事例を考察することで
日本の広告界の未来についての
考察をしたいと思ってます。

初日の本日は当ブログでも頻繁に取り上げさせて
もらっているリークロウ氏でおなじみの
TBWAシャイアットデイの事例。

【Lee Clow】


その前に用語に関してですが、
まず「アカウントプランニング」ですが、
これは90年代後半、
日本の様々な広告会社で導入された概念ですが、
日本においては「営業」の言い換えくらいにしか
なっていないのが現状です。

しかし実際の定義は米国広告業協会AAAA(A多すぎ)
によればアカウントプランニングとは
「消費者心理や行動を理解し、
 広告開発のすべてのステップに反映させること」
です。

消費者インサイト(Consumer Insight)に関しては、
ボク自身の個人的な捉え方になりますが
「買った本人すら自覚できない無意識層も含めた
真の購入動機を見抜くこと」だと思っています。

アカウントプランニングがアメリカで発展した背景は
日本におけるアカウントプランニングの権威である
青山学院大学の小林保彦教授の
「広告ビジネスの構造と展開」によれば、



バーンバックが1960年代に起こした
クリエイティブ革命の後の アメリカでは
1970年代に入って逆に
「マーケティング科学主義」が台頭したそうです。

過剰に計量化したマーケティング技術は、
人間の心理の奥までも数字でとらえようとした結果、
その「モデル化現象」が米国の広告から
クリエイティビティを奪ったそうです。
これって現在の日本とそっくりな気がします。

しかし70年代にはクリエイティブ゙不毛の時代と
言われたアメリカで80年代に
アカウントプランニングが導入され、
それと共にクリエイティブ再生が始まったそうです。

そのパイオニアがジェイシャイアット氏率いる
シャアットデイだったのです。

【Jay Chiat】


アカウントプランニングが導入された後の
アメリカ広告業界ではクリエイティブエージェンシーや、
プランニングエージェンシーといった 比較的小、中規模の
会社の活躍が見られる様になりました。

ナイキで有名なワイデン&ケネディやグッビーシルバースタイン等
新興勢力の活躍の背景にアカウントプランナーの
存在が認められてます。

【Dan Widen+David Kennedy】



【Jeffrey Goodby】


小林教授の本に寄ればアカウントプランニングを
取り入れた広告会社は、
①新しい広告主の獲得に成功するケースが多い。
②新しいビジネスチャンスに成功するケースが多い。
③数多くの広告賞を獲得するケースが多い。

シャイアットデイ社を例に取ると、
アカウントプランンイングが導入された2年半後の1984年には
取扱高が8千万ドルから2億3千万ドルに跳ね上がりました。

以前ご紹介したアップル「マッキントッシュ」のCM
「1984」はカンヌも受賞して
アメリカ史上最高のCMにも選ばれています。

そして「アカウントプランニング」および
「クリエイティブブリーフ制度」を取り入れたことにより
打ち合わせ時間が半分近くに短縮されたそうです。

シャイアットの広告は現在も、
アカウントプランニングおよびディスラプションに基づいて
制作されています。

ここでアップル「iPod shuffle」の事例をご覧ください。



このCMについても、
クライアントであるアップル社にしてみれば
「シャッフル機能」を中心にミニサイズになったことなど
様々な商品機能を語りたいところだったと思われますが、
消費者にとっての真の購入動機は
「シャッフル機能」ではなく、
「洋服につけられる」です。



シャッフル機能は自明なので、
広告であえて強調するポイントではありません。
パンフレットやWebやニュースで
知っているはずです。

しかし広告主サイドはこの商品の中核価値である
「シャッフル機能」を訴求したいと思うはずですが、
広告という「不自由なコミュニケーション」においては、
消費者サイドが買っている「本当の理由」1点に
絞りきらないと受け手の脳内にたどりつけません。

その「本当の理由」は競合商品との関係や
社会状況によって、常に変化するはずです。

広告は商品の絶対的普遍性を表現するために
使用すると思われがちですが、
この情報洪水の中では消費者の脳髄には
たどりつきにくいと思います。

消費者の心理を突き動かす最も重要な
「1つ」の訴求点を「消費者」の基準で
選ぶべきだと思います。

「2兎を追う者は1兎も追えない」のです。

クライアントは「洋服につく」だけを訴求するって、
うちはバッジ屋じゃないんだからって思うかもしれませんが、
広告は製品を正確にインフォメーションするためのものではなく、
消費者が買う理由にフォーカスして訴求すれば
十分役割を果たすと思います。

その訴求点の選定基準は、
広告主が「言いたいこと」ではなく、
ターゲットである消費者が「聞きたいこと」という
真逆の観点で制作されるべきです。
(当然、例外もありますが)

これはちょっとした違いの様でいて、
天動説と地動説くらいの差がある考え方です。
下手すれば死人が出ます。

クライアントにとってみれば、
7番目くらいに言いたいことであっても、
消費者にとって1番の理由になるなら、
その7番目の商品利便で広告を作るべきです。

この起点を間違うとボタンのかけちがいが起き、
どんなにインパクトがある広告表現を
用いたとしても、消費者の購入動機を射抜く
ビンゴな広告にはならないと思われます。

「購入動機を見つけること」こそが
クリエイティブでアートなものであるべきなのに
現状の広告界では、このパートは「データ」の
裏づけ偏重の「科学」として扱われている
という現状があります。

ここが一番の問題点であるように感じます。

また自分自身の願望を自覚している消費者は
案外少ないと思われます。

上記のiPod・shuffleも消費者調査をかけたら
案外「シャッフル機能が小さくなった」ことが
最大の購入動機という結論になってしまう
可能性も高い気がします。
この点もアカウントプランニングが抱える問題の
一つである気がします。

シャイアットが起こしたアカウントプランニング革命は
実はアップル1984以降、時代の潮流にはならずに
失速します。

本当に新しくて効果のある考え方は
簡単には受け入れられないものなのだと思います。

アカウントプランニングやインサイトの妥当性は
「数字」で表すことが困難なので
ビジネスにおいては負けやすいという
大きな問題点もあります。

最終的には、数字で証明できないものに
経営をゆだねるクライアントの「勇気」と
「口だけではない真の顧客視点」が
最大のポイントである気がします。

明日は90年代のアメリカで再び
アカウントプランニング旋風を巻き起こした
グッビーシルバースタイン&パートナーズの事例です。

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